シイタケは最も人気があって、最も多く栽培されているキノコですね。
最近では菌床(おが屑ブロック)やミニホダ木等、様々な栽培キットも売られていて、家庭でも簡単にシイタケ栽培が楽しめるようになりましたが、ここでは昔から行われてきた「普通原木栽培」について、経験上の栽培記を書きます。
使用する原木は、約90pに切ったコナラかクヌギです。
いつ伐採されたもので、どの位の乾燥期間が有ったかなどがはっきりしている物を入手しています。
一番良いのは、たまたま伐採している所に出くわす事です。お願いして頂いて来ます。
そう言うチャンスに恵まれない年は、森林関係に予約・注文して購入します。
このように、「素性のはっきりした原木」を入手しています。
と言うのも、原木の状態によって植菌のタイミングを掴まなくてはならないからなんです。
シイタケの菌にも「品種」が有るのです。各種菌会社や、林業特産課などで研究されて、沢山の品種が開発されています。発生する季節や、味、外観や成長の具合…が、それぞれです。
それを栽培者の目的などによって選びます。
この「品種の選択」も楽しみの一つだったりします。
例えば発生時期の違う品種を上手く組み合わせる事で、一年中シイタケを楽しむ事も出来ます。
ホームセンターなどで既に植菌済みのホダ木が売られていますが、その植菌されている菌の品種や、特性などが書かれていない場合が多いので、そこが不安で買う気にはなりません。
菌の特徴によって栽培法が変わって来るからです。
植菌の季節は一般的には冬〜春とされていますが、地域によって差が生じます。
今までの経験上、私見ですが、暖地でも寒地でも最も寒い時期が良いと思います。
と言うのも、腐朽菌類の世界は、「場所取り合戦」なんです。
「原木の中」と言う小宇宙の中で、自分の生活の場をいかに早く・多く確保したかが勝負なんです。
その勝負に負けた菌は、キノコを形成できずに敗れ去って行く場合も有りますし、互いの「陣地」に陣取ってしぶとく生きている場合も有ります。
シイタケの場合、その勝負で害菌に負けてしまうと、発生できない場合が多いです。
シイタケと言うのは、元々国内での自然発生は少ないキノコで、それを人為的に発生させている訳ですから…
害菌に侵されたと言う話をよく聞きますが、それは春先に暖かくなってからの植菌を行う為だと考えます。
シイタケよりも菌糸の伸長速度が早い、他の腐朽菌類に「場所取り合戦」で負けてしまう可能性が高いからです。
春先に暖かくなってくると、空気中にはクロコブタケ・カワラタケなどの腐朽菌の胞子がウヨウヨ飛散していると考えられます。
この害菌類は原木への侵入速度が恐ろしく速く、暖地においては大変な驚異ともなります。
わし自身、初めてキノコ栽培を始めた年は、害菌に侵されて原木を半分も無駄にすると言う悔しい経験をしました。
なのでそれ以来は、邪魔者が少ない寒期に種菌をして、春先までにはシイタケ菌を原木内に伸長させてしまおうと言う魂胆です。
本当は寒期接種は「掟破り」なんですけれど…
写真は「仮伏せ」の一例です。
寒期に植菌すると言う事は、害菌が少ないと言う利点の反面、菌類全体が活動しにくい時期でも有ると言う事です。
その為接種した原木を温めて、害菌類が動き出す春までに、木口近くまでシイタケ菌を蔓延させる為の大切な作業です。
一般的には、山桜が咲く頃までに植菌すれば良いとされていますが、わしにとって桜の開花時期とは、害菌の季節がやって来たと言う事なんです。
仮伏せ終了後は、原木の中に均等して菌糸を蔓延させる為に「本伏せ」をします。
色々な組み方が有りますが、わしのホダ場は平地なので写真のように「合掌組み」にします。
この組み方は構成上、合わさる原木同士が自然に交互に組まれる仕組みで、通風・乾燥・滴雨に優れています。
時期によってはホダ木の上と下とでは品質の異なったシイタケが発生します。又、地面との接触面が害虫※の餌食にもなります。
そう言った理由からホダ木の「天地返し」も必要な作業です。これをする事で原木内に均等に菌糸が蔓延して行くのです。
するとホダ木の寿命を延ばす事が出来るんです。
いよいよ発生です。
早春は低温と乾燥により、原基が形成されてから収穫までに10〜14日かかる事が有ります。
シイタケ自体は大きくなろうとしますが、シイタケ自体も乾燥しているので傘がひび割れた美しいシイタケが形成されます。
それがいわゆる「天白どんこ」です。
秋の発生では、比較的水分を含んだシイタケになります。
気温が高いときに発生したものは成長が著しく早いので、収穫のタイミングを逃さないようにします。
傘裏の膜が切れ始める前に収穫しないと、キノコ蝿の被害を受ける事が有ります。
キノコ蝿に入られてしまうと、調理する時に蛆だらけと言う悔しい結果を招く事も有ります。
これが最高級とされる「天白ドンコ」です。
見た目と言い、濃厚な味や風味と言い、「自然の芸術」!と言えると思います。
肉厚で歯ごたえが有ります。
(※害虫…カミキリムシ。初夏〜秋までに菌糸の蔓延が遅れた場合、翌春になると「カツカツカツ…」とカミキリの幼虫が原木を蝕むサウンドを聴かされる事となる。
奴らは木質部と樹皮の間を喰って進行…。いずれ原木は乾燥し、木質部は穴だらけのフンだらけ、すると菌糸は蔓延出来ず、乾燥して死んでしまう。
本伏せ直後に菌糸を蔓延させられれば、菌糸が木質部と樹皮の剥がれやすい組織を接着するので、カミキリの幼虫は侵入不可能となる。)