ヒラタケ短木栽培の巻

ヒラタケは以前「しめじ」として販売されていましたが、実はそれは、ヒラタケの幼菌でした。多くが菌床栽培で、それなりに美味しいキノコだったのですが、ここ数年では「ブナシメジ」にその人気の座を奪われてしまいました。
しかし最近になってその香り、味の良さが見直され「ヒラタケ」と本来の名前で販売されるようになってきました。
ヒラタケは、首都圏内の公園や学校樹木の枯部・河川敷の倒木等でも結構発生している、とても身近なキノコなのです。
原木キノコ栽培としては、一番早い時期にキノコ栽培の楽しみと喜びを教えてくれるキノコとも言えます。





ヒラタケ原木栽培に適した樹木は多種ありますが、その中でも最も適しているのと思うのは、「エノキ」だと思います。

その他、「シデ、ブナ、ハンノキ、ヤナギ類」などが利用できますが、エノキ、シデは樹木に心材がほとんど無いので、辺材を分解する菌で有るヒラタケに最も適していると思います。

ヒラタケが自然の中では、ヤナギ類に発生しているのを良く見かけます。しかし栽培に使うにはヤナギは心材が多く、虫が多く穿孔侵入していますし、枯れ難く、乾燥に時間がかかるので好んでは利用しません。









原木を使った栽培方法としては、伐採した木をそのまま利用して、種駒を植菌する「長木栽培法」と、扱いやすい太さの原木を90cmくらいの長さに切って種駒を打って利用する「普通原木栽培法」 が有ります。

その他、15cm以上の太さがある原木を15〜20cmに切って二個セットにしておき、その間にサンドイッチの様に大鋸屑菌を塗りつけて、鋏んで接種する「短木断面接種栽培法」とがあります。

 ここでは、「短木断面接種栽培」について記述していきたいと思います。













まずは取り寄せた大鋸屑菌を、原木を切断した時に出た大鋸屑と米ぬかに混ぜて増量します。水を注入しながら撹拌してよく混ぜ、手で軽く握って水が垂れる程度に調合します。

調合し、練り終わったら、断面に種菌を塗り付けて切断面を合わせてもう一個の短木を乗せます。
この時少々捻る様に体重を掛けて押しつけてやるのがコツです。

接種後は、転倒等によって二個の原木の接着面が剥がれてしまわないように、幅広のビニールテープまたはガムテープで固定します。












仮伏せは良く日が当たる所で行いますが、ビニールシートやウレタンシート、「ゴザ」や「こも」で覆って直射日光を遮ぐと共に保温をします。
仮伏せは、こうして温める事でなるべく早く菌を原木内に蔓延させるための大切な作業です。

気温が15度を超す頃になったら、覆った資材を外します。15度を超す様になると、逆にカビや害菌類を寄せ付けてしまう可能性があるからです。












接種した時に巻いたビニールテープがその保温効果により、菌を元気に育ててくれます。4月からの培養はちらちら日が射す様な雨が当たる木の下等に置き、7月まで乾燥に気を付けて培養します。

大体梅雨時期になると、地面に接地している方へ菌糸が出て来ます。
この様になったら一回天地返しをします。
このまま一ヶ月置き、反対の原木にも菌を蔓延させます。

7月も半ばを過ぎたら、テープを剥がし、二個一組でくっつけておいた原木を一つずつに分離します。各原木の長さの半分の深さの穴を掘って埋設します









品種にもよりますが、秋が深まって晩秋に近づいて来る頃に株状に大量発生してきます。
好みの大きさで収穫しますが、傘の大きさが500円玉大くらいから少々大きくなったくらいの時に収穫した物が、わしは美味しいと思っています。

その年の気候と地域の気候にもよりますが、大体2週間〜4週間くらいの間隔で発生を繰り返し、気温や湿度の具合によって翌年の4月上旬までダラダラ発生を続けることもあります。










            
                 
『天然キノコと原木栽培キノコ』

「自然きのこ」「天然きのこ」は、世間では貴重がられ、その価値の高さというのには、それはそれは驚くばかりです。
わしも実際に天然物を収穫に行き、その発生している所の周辺の環境等を栽培のために調査してきますが、ひとつ思う事があります。
実際自然の環境というのは、我々人間には管理なんてできないんです。
なのでいろいろな弊害があります。
風の日の後はキノコの汚れが酷いとか、地際から発生した物は泥臭かったり、掃除が大変、雨後は泥はねがあったり…水っぽくて美味しくないなど。(きのこは洗わずに食べると言いますが、このヒラタケは特にそうです。洗うと吸水が激しく、絞ってしまえばあんなに美味しい出汁がどどっと流出してしまう… 
中には乾燥と吸水を繰り返しているのにも関わらず、一見発生してそう経ってはいないような姿で生えて居る事があります。そう言う物の味はゴムを噛んでいるような…つまり最悪だそう)です…。

それでも天然は美味いと言う方達は多々います。事実旨い個体に偶然出会える事も有ります。 しかし、同じ原木を使った栽培なら、もちろん天然物と同じ味、いや、発生するまでの管理や風や雨から保護することによって、何倍もおいしいキノコを好きな大きさの時に収穫出来るのです。
第一安全ですね。何が掛かっているか判らない、もしかしたらお犬様の落とし物が…!なんて…、考えなくても良いのが栽培です。
濃厚な味、独特の芳香、風味…は、はっきり言ってしまって…栽培物の方が上…の場合が多いと思います。
しかも他人と争わなくて済むので、気持ちを豊かにさえしてくれます。

ヒラタケは環境が許す限り、毎年栽培したいキノコですね。